コーヒーから見るタイの歴史 - チェンマイとチェンライ - 【海ノ向こう編集室】


タイ ドイバンコン

産地担当の山本です。今回はタイのコーヒーについてご紹介します。

コーヒー。その歴史を紐解くと、とかく「植民地」との結びつきが強く、深く掘り下げると南北問題や奴隷といった言葉が出てくることが多い作物です。アジア諸国も植民地事情とともに拡大していましたが、タイ王国はそのような事情とは少し離れた部分で広がりを見せました。今回はタイにおけるコーヒーの歴史と現在の広がりを書いてみたいと思います。




国家的なケシ栽培撲滅政策によるコーヒー栽培の広がり

クロップ

タイのコーヒー栽培。特にアラビカ種の栽培は1970年代初頭に始まり、80年代には農業として確立されていきました。その主導権を握ったのが当時のタイ国王。タイ北部、ミャンマー北部、ラオス北部、この一帯はいわゆる「ゴールデントライアングル」と呼ばれるケシの一大栽培地域で、売買も広く横行していました。その北部一帯でケシ栽培からの脱却を目指すべく始められたのがコーヒー栽培です。この地域は複数の山岳民族によって構成されており、コーヒー栽培にも適した環境でした。よくコーヒーの商品説明には「この国のコーヒー伝来の歴史はスペイン領の時に〜」、「オランダ領の〜」、「東インド会社が〜」などの表記が見られますが、タイではそのようなことはありません。王国内の政策としてコーヒー栽培が導入されたという東南アジアの歴史では珍しいケースで、ここにタイコーヒーの面白みや大きな可能性を感じています。



アラビカ種の2大栽培地・チェンマイ県とチェンライ県

タイ ドイバンコン

さて、北部のケシ栽培撲滅政策に採用されたコーヒーはその後広がりを見せ、現在ではアラビカ種10,000t、ロブスタ種25,000tが生産されています。特にアラビカ種の栽培では大きく2つの地域、チェンマイ県とチェンライ県が有名です。

チェンマイ県では、ドイサケット地方を中心にコーヒー栽培が行われています。ドイサケット地方はアラビカ種導入の地。つまり、ケシ栽培撲滅の試験地として始まったので、導入当時の品種(ティピカ)が多く残されています。コーヒーの木の齢は30~40年。現在ではサビ病に強く、生産量が多い品種に植え替える農家さんも見られるようです。

チェンライ県では海ノ向こうコーヒーも取り扱っているドイパンコン地方が有名です。約300世帯がコーヒー生産に従事しており、各世帯おおよそ1~2tのパーチメントを生産。これは、アジア諸国の中ではかなり高い生産量です。山岳民族・アカ族の生産者は、コーヒーの木より若い25~35歳が中心。標高1250~1500mの地帯で栽培されていますが、こと緯度の高いドイパンコンにおいては、標高1550mを超えるとコーヒーの木にとっては気温が低くなりすぎるため、栽培が難しくなります。品種はティピカ、カツアイ、チェンマイがメイン。チェンマイとは、SL28とカツーラとハイブリッドティモールをかけ合わせた、コロンビアやカスティージョと同じカティモール系。現在、私たちが販売しているドイパンコンはまさにこれで、サビ病に強く、国王の品種改良政策で作り上げられた品種です。


フアディさんとともに

フアディさん手動で稼働した工場

ドイバンコンでは、パートナーBeans Spire・フアディさんを中心に農家主体で工場が運営されています。世帯ごとに行っていた加工を一か所にまとめるために、水洗工場を導入して品質向上に成功。さらに加工場は毎年拡張され、今年はカッピングラボが建設されました。これにより、生産者さんが自分たちの作ったコーヒーの品質を確認し、向上させるための品質管理部門ができ上がったのです。確かに今年のドイパンコンの品質はクリーンカップが高まり、香味がさらに明確に、甘味がさらに長続きするようになった印象です。

チェンマイ県とチェンライ県。高品質のアラビカ種を産出する地域として有名ですが、その特徴をあえて分けるとすると、単一品種のマイクロロット(というかナノロット)が得意なのがチェンマイ県。そして、大きな生産量とソーシャルインパクト、つまり農家さんにサステイナブルでヘルシーなインパクトを提供できるのがチェンライ県(ドイパンコン)です。


フアディさん手動で稼働した工場

東南アジアにおいて、小農家がコーヒー栽培を収入源に期待するのは難しいもの。しかしドイパンコンにおいては、タイ国内の経済成長によるコーヒー価格の安定的な高値と、高い生産量によって、コーヒー栽培だけで経済的な自立が図れるとても稀なエリアです(こういった生産地を僕らは増やしていきたい)

また、高い品質はもちろんのこと、フアディさんが作り上げた生産者との関係、20代~30代の若き生産者とともに品質向上のために歩もうとする決意と行動はとても共感できるものです。私たちも彼らの活動を少しでもサポートできるよう、継続的に買い続けていこうと思います。








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